《19世紀のフランス首都パリは、第二帝政下の都市開発により、目まぐるしく変化する大都市だった。詩人ボードレールは、「理想の散文詩」をスローガンに、五十編の散文詩からなる一冊の詩集「パリの憂鬱」完成の為に、情熱と歳月を費やした。》

 「現代性の誕生」、「現代詩の決定的な発端」と呼ばれるこの詩集は、ボードレールが持つ独特の感受性によって書かれています。 彼は、《詩人は、独自の手法で、他人で在ることも自分で在ることも可能な、比類なき特権的楽器を、自由自在に奏でることができる》と言っています。つまり、詩人は鏡のような感受性を自在に操れるというのです。

 写真は、現在、私が翻訳挑戦中のフランス語の原書「Le Spleen de Paris」。やっと80%近くまで、日本語訳が進みました。

 読み始めると、ボードレールが、最愛の恋人はもちろん、当時のパリに生きる貧しい人々、孤独な人々、心傷ついた人々、孤児達や不運な宿命を背負った人々に、常に熱い視線を注ぎ、時には優しく時には残酷に共感し、自分の詩のテーマとして、いかに真剣にその姿を綴ったのかが分かってきました。ボードレール自身、不治の病で、死期が我が身に迫っている状況でしたが、渾身の想いで執筆しました。その詩人の情熱が身に沁みます。

 美学としての理想的な散文詩を目指した詩人に、少しでも近づきたくて、翻訳する時はエネルギー全開です。素敵なパリの詩人ボードレールが隣にいて、話しかけているような、そんな新訳「パリの憂鬱」を目指しています。

 翻訳本完成まで、まだまだ先は長いですが、いつの日か、皆様に読んでいただけますように・・・。


ボードレールの詩集「パリの憂鬱」について、二冊の秀訳書も紹介します。

①小散文詩「パリの憂鬱」シャルル・ボードレール

訳・解説 山田兼士(2018年 思潮社)

②ボードレール「パリの憂鬱」

訳・渡辺邦彦(2006年 みすず書房)

 山田兼士氏、渡辺邦彦氏共に、翻訳・編集・出版関係では、プロ中のプロです。

山田氏は詩人でもあり、ボードレールの存在感が浮き彫りになってくる明晰な翻訳文です。渡辺氏は、当時のボードレールが母や友人に書いた手紙文も翻訳し、詩人を取り巻く環境をも明確にしています。(私が翻訳文に迷う時、この二人が、必ず助け舟を出してくれます。)

 私が初めて「パリの憂鬱」(訳・三好達治)を読んだのは、高校一年の時。仙台駅前の高山書店で、詩集のタイトルに魅かれて購入し、近くの喫茶店アートコーヒーに入って、ちょっと大人っぽくブラック珈琲など飲みながらページをめくったのを思い出します。あれから50年もの月日が流れました。

 言葉の大海のような、不思議な魅力を持つ詩人ボードレール。人間は一つの宇宙だと証明する詩人との出会いでした。

皆さんも、書店で気になる詩集を見つけたら、ぜひ読んでみてください。そこには素敵な出会いが待っているかも知れません。